第82回独立展

2014年10月15日(水)〜10月27日(月)
国立新美術館

「フィラメント」F200号

【展誌エッセー】

 それどころじゃない。

大久保 宏美

 こんなことに煩わされるよりもっと大切なことが他にもあるのだ、とファーストプライオリティを理由に後へ後へと押し返す。個人的なことと相対的なことは優先順位が逆転したりして、大人ならではの不条理を纏う日々。
 本職を重んじる反面、絵以外のことで誉められるとヤケに嬉しい時があり、むしろ人の心をくすぐるのは正面ではなく側面なのか、と自分自身のアナザーサイドを考える。
 いつからか抽象作品を描いている。はっきりした境目があったわけではなく、なんとなく描きたいものだけを描いていって、現状こんなことになっている。具象作品を人に頼まれ制作し、力量以上のものが出来ることがある。抽象絵画にまみれてひっそり飾った動物の絵だけが即売れたりする。具象がもっと見たいと人は言う。側面の不条理を思う。
 実は浪人時代や大学時代の精神的に苦しい時にしか大作の具象作品は描いていない。決して不得意ではない描写やデッサンは、心の闇とともに記憶され重い気持ちになるのだ。しかし人に薦められた時がチャンスなのだとすれば、そちら側に舵を取ってもおかしくない時期なのかもしれない。
 でも結局今、何が描きたいか、そこに尽きるのだ。アナザーサイドはしばらく静観、この立ちはだかるキャンバスに何を定着させるのか。いざ勝負。